静岡日本酒蔵めぐり「杉錦」

 先日、いつもの狸の穴のウォーキングメンバーで杉錦の蔵を見学させてもらった。杉錦は社長が杜氏を兼ねる蔵元で、静岡ではよく見られる形だ。平成11年度までは南部杜氏を招いて酒造りをやっていたようなのだが、お酒造りの多角化などの経営的な面、自由でこだわりの酒造りなどを目指し、平成12年度から社長が手探りで酒造りをやってきている。場所はJR東海道「藤枝駅」北口から歩いて5-10分程度のところにあり、古い煙突(現在使われていないようですが)がランドマークとなっている。歴史は古く、1842年から続く蔵で、日本酒だけではなく、みりん、焼酎なども造っている。みりんは普通のものより少し(いや、大分)高い値段の高級なみりん(飛鳥山)で、甘みとコクが通常のみりんとは比べ物にならない。

天保十三年の看板

天保十三年の看板

杉錦6代目当主「杉井均乃介氏」

杉錦6代目当主「杉井均乃介氏」

 社長は6代目当主となる杉井均乃介氏。お話をさせて頂くのは今回で3度目になるのだが、とにかく、知的かつ個性的な方で、機知に富んだ話が面白い。誤解を恐れずに言えば、良い意味で「ひねた」人物だ。お話をしていると、酒造りに関する明確なビジョンがあり、合理的な考えの持ち主である事が伝わってくるのだが、杉錦の味わいはとてもクラシックというか、伝統的な古い日本酒の味わいとなっている。東京農業大学 醸造学科卒という知識の背景に加え、人物的な深みと杉錦の歴史が融合した結実なのかも知れない。

蔵の中を見せてもらう

蔵の中を見せてもらう

 そういった細かい背景は置いておいて、個人的には、今、非常に気に入っているお酒の一つだ。旨い酒だと思う。杉錦の様々なラインナップがある中、「杉錦らしさ」を最も味わえるのは、「純米酒」だと思う。その中でも、一つをお気に入りとして挙げるとすれば、「菩提もと」だ。強めの酸味が辛さを引き立たせ、スッキリとした口当たりとなって、夏の季節によく合う味わいに加え、生もと作りの原型となった「菩提もと」というロマンも素晴らしい。

 ただ、このお酒、個人としては気に入っているのだが、「おいしいよ~」と他人にお勧めはしていない。近年、静岡の日本酒は、品評会で高い評価を受ける事が当たり前の事のようになってきていて、品評会の味を「旨い」とするならば、杉錦の純米酒は違う。品評会で高評価を受けるお酒というのは、さらっとしてキレがあり、確かに旨い。しかし、没個性というか、「品評会に受ける酒」であり、ゴールが決まっているお酒となってしまっている。もちろん、杉錦も大吟醸などの上位ブランドではそういった味わいのものもある。

試飲させて頂きながらお話を伺う

試飲させて頂きながらお話を伺う

 しかしながら、お酒というのは、嗜好品である。嗜好は人によって異なるし、季節、体調、場所、酒のあてなど、様々なシチュエーションによっても変化する。その時、その時に合わせたお酒を呑む事が出来ればとても幸せだ。品評会は、高評価となる味を狙って出す競技であり、杜氏の技術の向上という意味で、とても大切な事だと思うが、品評会を根拠に、今日呑む酒を選んでしまっては面白くない。日本酒の味の個性を知る事で、酒へのロマンが深まり、楽しみが増えていく。杉錦は、そういった事を教えてくれるお酒だ。

[杉錦 蔵元の場所]

住所:静岡県藤枝市小石川町4丁目6-4
小売部:担当の方が居れば小売してくれます
ホームページ:http://suginishiki.com/

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