「焼津」の自慢のお酒「磯自慢」。マグロ・カツヲの焼津港とサバの小川港の間にある蔵元だ。品評会に出れば、常に上位に顔を出す銘酒の一つだ。そんな磯自慢の知名度が飛躍的に上がったのは、2008年7月7日に行われた北海道洞爺湖サミットの福田首相主催の初日の夕食会で「磯自慢 中取り純米大吟醸35」が、乾杯用のお酒として採用された時だ。静岡のお酒としては快挙だった。
[磯自慢 蔵元の場所]
住所:静岡県焼津市鰯ケ島307
地図:Google Mapで場所を確認する
小売部営業時間:10:00~16:30(休業日は日・月曜、祝日)土曜日は休む事あり
ホームページ:http://www.isojiman-sake.jp/jp/(音楽がなるので注意。ほんと、こういう作りはやめて欲しい)
蔵としての歴史は長く、創業は天保元年(1830年)で、200年近い歴史を持つ。現在の寺岡洋司社長は7代目にあたる。今でこそ、様々な品評会で評価される事が当たり前のようになったの歴史ある蔵なのだが、元々は大変小さな蔵で、寺岡社長の時代に飛躍的に伸びている。
磯自慢の味はさらっとしているが、奥深く、口に含んだ後、キリッとした酸味を少し感じる。香りは上品というか、控えめ。この味と香りを決める日本酒の重要な原料は、以下の3つである。
1.酒米
2.酵母
3.水
これらの原料を酒造りの職人である杜氏(とうじ)がどのようにしていくかで決まる。
現在の磯自慢の杜氏は南部杜氏の中でも麹造りの神様と言われている「多田信男」である。以前は地元の「横山福司」志太杜氏で、現在の磯自慢の名声の基礎を作ったと言われている方だ。彼の引退に伴って、1990年に後を継いだのが、南部杜氏の「瀬川博忠」だったが、その後、志太泉(藤枝市)で杜氏をやっていた多田さんを横山さんがヘッドハンティングをして、1996年から彼が杜氏を務めている。
磯自慢の凄さは、本醸造、別撰本醸造、特別本醸造のレギュラー酒が異常にレベルが高いところにある。吟醸、大吟醸がうまい蔵はある。しかし、本醸造クラスが本気でうまい蔵は多くない。杜氏を初め、蔵全体での努力が感じられる。
磯自慢は無個性と言われる事もあるかも知れない。本醸造なのに、飲みやすくて、さらっとしたお酒なんて・・・。しかし、酒を単独で飲む場合は少し物足りない感じはするかも知れないが、焼津という土地柄であれば、マグロやカツヲをアテに飲むわけで、食中酒としては、食事の邪魔をしない「さらっと感」が非常にいい。値段含めて、地元焼津の毎日の食中酒を意識したお酒で、地元を大切にする磯自慢の誇りが本醸造だと思う。
この本醸造の中でも、別撰と特別では「特A地区東条産 山田錦」を使っている。100%だ。本醸造で東条産ってあり得ない。別撰だと、焼津の酒屋なら一升瓶が2500円程度で買えるからありがたい。
この東条産山田錦であるが、最初から売ってもらえていたわけではなく、寺岡社長が最初に行った時には、全ての農家で門前払いだったそうだ。6年間、毎年通って、ようやく売ってもらえるようになったそうだ。限られた生産量の東条産山田錦を、そう簡単に手に入れる事は出来ない。
酵母については、今のラベルには自社保存株となっているが、恐らく、静岡酵母の流れを汲んだものと思う。酵母にも熱い歴史がある。近年、磯自慢の、というか、静岡の地酒のレベルを一気に引き上げたのは「静岡酵母」の存在が大きい。
静岡酵母を生んだのは「河村傳兵衛」という方だ。吟醸造りの実績を持つ県内の蔵で発見した酵母菌をもとに開発したものだそうだ。河村氏は、静岡の蔵元で知らない人はいないという方だ。磯自慢も、國香も、喜久酔など、静岡の酒造りにおいて、必ず、名前が出てくる。磯自慢にも夜更け(午前2時とか3時)に訪れ、「微生物にホリデーなし」という名言を残した、静岡の酒造りに尽力して頂いた方だ。
そして、酒造りにもう一つ大変重要なのが水である。磯自慢は、仕込み水に大井川の伏流水を使っている。大井川は南アルプスの間ノ岳が源流となっている川だ。県外から間ノ岳に登る機会がある方は、遠いが帰りに焼津に寄って、魚と磯自慢を堪能してもらいたい。ちょっと遠いが・・・。
さて、磯自慢は杜氏、原料などに大きなこだわりがあるのだが、それだけではない。杜氏集団の為の居住スペースを改善したり、蔵内を完全にスタンレス張りにしたりするなど、大きな努力がなされているが、その話はまた、別の機会に。
よく聞かれるのが、焼津に来た時に磯自慢の本醸造が買えるお店。地元焼津の酒屋さんなら、取り扱っているお店は多い。量販店やスーパーには置いていないので、いわゆる酒屋さんに行くといい。但し、焼津と言えども、磯自慢は常時品薄状態である。
焼津の駅前から歩いていけるところだと、以下の2店舗が近い。
・池田酒店
・仲野酒店
もし、車でという事であれば、
・酒蔵いとう(月曜定休、8:00〜21:00)
・原田酒店
の品揃えがよい。「いとう」は磯自慢以外にも静岡の銘酒、ワイン、焼酎なども豊富に揃っているので、非常に楽しいお店なので、お酒が好きな方は、是非一度訪れて欲しい。