第二章 実践!管理表の書き方、活用法
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2.2.1.農作業予定と実績表
本節から実際のファイルの記述方法について解説していく。まずは、最も基礎的で重要となる作業管理表からになるが、作業管理は農作業予定と実績(日記)を記帳していくものだ。
図2.1.1.にあるように、作業管理のフォルダには年度別に分けた「農作業計画&実績_YYYY」(YYYYには年度が入る)というファイルで構成されている。当農園の場合、2013年10月から記述をスタートし、その時から6年間、毎日、記述を続けているので、どういう時期にどういう作業をやるのか、一つ一つの作業がどの程度の時間で出来るのか、作業の課題や解決方法などの記録が残されている。
2.2.2.農作業の予定と実績を記述
2017年シーズンを例に説明していく。「農作業計画&実績_2017」ファイルを開くと図2.2.2.のような体裁になっていて、年度ごとに分けられたファイルは更に、図2.2.2.の①のように、月ごとのシートに分かれたシートで構成されている。
2017年10月(シート名「1710」)を例に実際の中身を見ていく。記述する内容は、行単位で日別に記述しており、左から以下の構成になっている。
日付 | 曜日 | 天気 | 最高気温 | 最低気温 | 午前作業 | 午後作業 | メモ |
②の天気、最高気温、最低気温については以下のようなサイトから地点検索をして、10日間データから転記している。天気情報は様々なサイトがあるので、気に入ったサイトを使えばいいと思うが、サイトによって若干、気温が異なるので、より安定したデータを取得したい場合には気象庁の地域データが確実かも知れない。
▷▷サイト名:tenki.jp(下記、URLは当農園がある吉田町の場合)
▷▷https://tenki.jp/forecast/5/25/5010/22424/10days.html
天気については、多少精度が低くなるものの10日間先まで把握しておく事で、作業の組み立てを早い段階で行う事が出来る。もちろん、近い日付の天気予報は精度がより高い為、日付が近くなるにつれて、日々、作業予定を更新していく。
温度に関しては、実際の圃場の温度とは多少異なるが、実用上は大まかな気温の把握で十分であり、インターネットから無料のデータを取得している。後述となるが、日々の気温データは積算温度の計算に使う事が出来るので、収穫や管理作業の目安とする事が出来る。
③が作業の予定と実績であり、左側が午前、右側が午後となる。事前に作業予定を記述しておいて、その日が終われば、実際の作業内容に合わせて実績を修正している。もし、予定していた内容が終わらなかったり、前倒しの作業が発生したようであれば、翌日以降の予定表を変更していく。どの程度、先の予定を作成するのかについては、記述する方の負担が重すぎない程度となるなが、最初は1〜2日程度から初めてみるのでもいいと思う。慣れてきて、1〜2週間程度先までの計画を立てておく事が出来るようになると、効率的な作業実施に繋がる。当農園の場合、以下の頻度で記述している。
□作業予定/実績の記述の流れ
頻度 | 内容 |
毎日 | その日の実績を更新しながら、数日先の作業予定を修正 |
週一 | 2週間先まで詳細な項目を記述 |
月一 | 3〜5ヶ月程度先まで簡単な項目のみを記述 |
□具体的な書き方例(2017年10月18日(水)の記述)
午前作業 | 午後作業 |
土壌改良材散布 YRF01-1(3列) ア3(振りそこね) 土壌改良材散布 YRF01-2(4列) フ1、ア4、マグ2 機械移動 定植機 防除3(風次第) KKR01(7列) 200 プレバソン100 カセット200 苗受取 0925-JAホーガン 15枚 ジュリボ 40枚(10L 50ml×2回) |
肥料散布 YRF01-1/2(5列) ス2.5、C5、ペ10、サ5、M15 レタス定植 YRF01-1/2(5列) 肥料散布 YRF01-2(2列) ス1、C2、ペ4、サ2、M4 レタス定植 YRF01-1(2列) |
当農園の実際の内容を見てみる。上記は2017年10月18日(水)の作業だ。この前には台風が来ており、13日から17日朝まで雨が続き、その翌日以降に2回目の台風が来る予定で、引き続き雨が降る予報となっていた。この為、この日は貴重な晴であり、水はけの良い圃場を使って、無理やり定植と遅れていた防除を行う予定となっていた。
表の中身を見ていくと、午前中、まずは、土壌改良材(「ア」は「アヅミック30」の略など)をYRF01-1とYRF01-2という名称の圃場に散布を行っている。午後にレタスの定植をする予定の為、散布と平行して、別のスタッフがレタス移植機を圃場に移動させている。
また、その日の風が強くないようであれば、先行した日付でレタスを定植してあるKKR01という圃場へ防除を行う予定であり、実際に散布を実行した。その他、農協に発注していたレタス苗を受け取ったり、自社生産の苗と合わせて40枚のレタス苗箱にジュリボという農薬を灌注している。
午後になると、肥料散布と、記述は無いが、トラクターで畝立てを行いつつ、出来た畝からレタスを定植していった。午前定植が出来れば良かったのだが、少しでも水がはけるのを待って、畝立てを行っている。
この日、午前中いっぱいまで圃場の状況を確認し、午後から肥料散布を開始して定植までを終わらせるとなると、100m畝で7列の定植が完了可能な量であり、スタッフと意識と作業内容を共有出来た事で、その計画を無事に実行出来た。
前後を台風で挟まれており、畝の状態が良くなく、活着しづらいリスクもあり、時間的にも限られる難易度が高い作業スケジュールになっていたのだが、過去の販売データからこういう場合に定植したレタスは高値で出荷出来る可能性が高く、また、苗の状態が著しく悪化し、この後の作業スケジュールへの影響を少しでも抑える為に、無理を押して計画、実行した記録である。
ちなみに、④がこの日の日記を記述するところで、以下の通りとなる。
メモ |
雨の合間をぬっての定植。YRF01は雨には強く、雨翌日の午後ですぐさま定植出来た。乾燥には弱いので、キャベツをやるなら、水をばんばん掛けないと持たないと思われる。 |
相当量の雨が降り続いた環境でも定植作業が出来たYRF01という圃場の強さに驚きながらも、レタスの後作として、2月頃にキャベツを定植する予定でいた為、水はけの良さが逆に気になった。この2年前にもレタス後作でキャベツを定植したのだが、結果が芳しく無かった。肥料が少なめだったので、肥料の問題か圃場の問題かを切り分ける為に、今年、肥料を増やして再チャレンジする予定だったので、この日の事は重要事項としてメモに残しておいた。
ちなみに、翌年2018年2月と3月の2回に分けて、予定通り、キャベツを定植したのだが、雨が少ない2月期の定植は活着が悪かったが、雨が増えた3月はそれなりに活着し、両方合わせた圃場全体の結果としては2年前よりも収量が向上したが、同時期に植えた他の圃場と比べるとサイズ面で伸び悩み、収量で見劣りする結果となった。採算的には合わないわけではないので、他に有効な圃場がなければ3月定植、5月下旬採りキャベツなら検討可能な作付けが出来る圃場という判断が出来る。
2.2.3.積算温度の様々な活用方法
農作業を計画していく上で、重要な要素の一つとして、収穫日予測というのがある。特定の作物において、収穫日が決まる重要な要因となるのは、「積算温度」と「品種」の2つではないだろうか。これを基本として、圃場毎における個別の環境要因からプラスアルファが発生すると考えている。
その考えから、当農園では、日々、農作業計画&実績に気温データを蓄積し、作物毎、圃場毎に積算温度の算出を行っている。当農園の生産作物は、レタス、キャベツ、とうもろこし、水稲、トルコキキョウなどとなっており、それぞれの作物毎に収穫日、管理作業日を予測する事で効率的な作付け、人員配置の戦略を立てている。
確かに、経験が豊富なベテランであれば、何日ぐらいに定植すれば、いつぐらいに採れるというのは、ある程度、把握出来ており、必要ないと考える人も多いかと思うが、経験の裏付けデータとして、活用していく事も可能であるし、圃場毎に出る特性を理解していく事で新しい圃場を受けた場合にも計画を立てやすくなるというメリットがある。
まずは、水稲を例にとって見ていこう。表の見方は以下の通りである。
# | 説明 |
① | 一ヶ月を通しての年度別平均気温。過去の傾向をすぐに把握出来るように過去データも表示。 |
② | 左から定植した日付、品種、圃場番号。 |
③ | 月毎の積算温度。 |
④ | 現時点での積算温度、出穂後の登熟温度、出穂日などのデータ。 |
⑤ | 品種固有の出穂日までの積算温度、登熟温度。 |
水稲は風の影響が少ない5月〜9月の露地栽培である。風が少なく、太陽は高く、日照もある事から、圃場による差は小さく、品種の影響が大きい時期と考えている。当農園では、この年、5品種を栽培しており、出穂と登熟までの積算温度は下記の通りである。
品種 | 出穂 | 登熟 | 早晩生 | 収穫時期 |
あきたこまち | 1580 | 950 | 極早生種 | 8月下旬〜9月初旬 |
ひとめぼれ | 1700 | 1000 | 早生種 | 9月上旬〜中旬 |
キヌヒカリ | 1750 | 1000 | 早生種 | 9月上旬〜中旬 |
コシヒカリ | 1700 | 1000 | 早生種 | 9月中旬 |
きぬむすめ | 2000 | 1000 | 晩生種 | 9月下旬 |
当農園では9月中旬にトルコキキョウの定植、9月下旬からレタス定植を行っている関係で、9月中旬より前に稲刈をある程度進めておきたいという狙いがある。また、当農園が所有しているクボタの二条コンバインでは一日辺り5反程度の収穫が最大となる。加えて、水稲をされている方はご存知だと思うが、用水に水が来る時期、つまり、田植が出来る時期は地域で決まっており、突出して、早く植えたり、遅く植えたりするというのは難しく、田植時期というのはある程度、決まっている。
こういった事を踏まえて、収穫作業をスムーズに進め、機械の性能を無駄なく発揮する事を考えた作付けにする為には、品種を適切にばらつかせる方法が有効であると考えられる。この年は、機械を購入して2年目という事もあって、経験が少ない為、なるべく多めの品種でテストして、データ収集を優先する作付けを行った。
表の通り、あきたこまちが突出した極早生となっており、1600度弱の積算温度で出穂する。次に、ひとめぼれ、コシヒカリが1700度で続き、キヌヒカリが1750度程度となっている。きぬひかりは晩生で2000度での出穂となる。
つまり、収穫の日付ではひとめぼれ、コシヒカリ、キヌヒカリについては大きな差が出ない為、食味という点を考慮しなければ、もっとも反収が高くなる品種を一つ選ぶことが収益を最大化する事が出来る。