草枕 (新潮文庫)
作者:夏目漱石
発行年:1950
出版社:新潮社
読み終えた日:2007/09/14
スター:★★★★☆
夏目漱石の作品を読むのは高校生の頃以来で、14・15年ぶり。長男の名前を付ける際に一文字もらった程の影響を受けた作家の一人。
それ程の影響を受けたにも関わらず、漱石の作品は3冊しか読んでいない。特に理由はないのだけれども、あまりにも有名な作家で、いつでも読めると思っていた為か、長い間、その存在に触れないできていた。
「智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。」、草枕を読んだ事がない人でも知っている、草枕の有名な冒頭の文。私もここまでは知っていたけれども、その後に続く二文「意地を通せば窮屈だ。兎角に人の世は住みにくい。」は知らなかった。
この草枕、読もうと思うと、難解を極め全く意味を通じ得ない。章毎に話が飛んでいくし、ぶつっと視界が変わる。筋がない。加えて、使われている言葉が難解の極み。169ページの小説で、330もの注解が付けられている。
ただ、気楽に眺めるとすると、非常に面白い。意味が分からないところは気にせず、分かるところだけで意味を捉えればそれで十分なのかと思う。
所々に覚えておきたい優雅な表現がある。
「死なんとしては、死なんとする病夫の如く、消えんとしては、消えんとする燈火の如く、今已むか、已むかとのみ心を乱すこの歌の奥には、天下の春の恨みを悉く萃めたる調べがある。」(p.33)
「一寸涙をこぼす。この涙を十七字にする。するや否やうれしくなる。涙を十七字に纏めた時には、苦しみの涙は自分から遊離して、おれは泣く事の出来る男だと云う嬉しさだけの自分になる。」(p.37)
「この夢の様な詩の様な春の里に、啼くは鳥、落つるは花、湧くは温泉(いでゆ)のみと思い詰めていたのは間違いである。」(p.105)
「世の中はしつこい、毒々しい、こせこせした、その上ずうずうしい、いやな奴で埋まっている。元来何しに世の中へ面を曝しているんだか、解しかねる奴さえいる。しかもそんな面に限って大きいものだ。浮世の風にあたる面積の多いのを以て、さも名誉の如く心得ている。」(p.131)
「色は刹那に移る。一たび機を失すれば、同じ色は容易に目には落ちぬ。」(p.145)
注解のところに出てくる漱石、明治三十年作の俳句。
「木瓜咲くや漱石拙を守るべく」
の詩もなかなか良い。